例え


目が見えなくなっても、

声が聞こえなくなったとしても、

必ず見つけるから。



だから―――― 













 【 Dear of you transmitted from hand 】












時は朝6時半。
季節、冬。

あと僅かで3学期を終えるというこの時期、
寒さは随分と和らいできたような気がする。
頭上では桜の蕾が膨らみかけて、訪れる春の陽気を心待ちにしている。
きっと4月には満開の花を咲かせるのだろう。

なんて。

そんな状況を冷静に話している場合では実は無い。
何せ学校に向かう途中だった私は、不意に大ピンチに陥ってしまったのだから。
大問題も大問題です!!
何せ今の私は・・・・




視界ゼロ。




あ、言っておきますが、
別に目が悪いわけじゃありません。
変な病気でも無ければ、勿論目隠しをしているわけでも無いです。


答えは簡単。
瞼を閉じているから。
だから視界ゼロ、真っ暗なのです。


では一体何故にこんな事になってしまったのか?
私は閉じた瞼を薄っすらと開いてみる。
「痛っ、イタタタタッ!!」
あまりの痛さにそのまま目を開ける事も出来ず、私は再び瞼を閉じる。







数分前の事。
学校への通学路を、私は大欠伸をしながら歩いていた。
周りには生徒の姿は見えず、とても静かだ。
私がマネージャーを務める男子テニス部の朝練は、他の部活よりも開始時間が早い。
だからこの時間にテニス部員以外の人間が歩いている事なんて殆ど無いのだ。
そんな中を私は、
MDウォークマンから流れてくる音楽に耳を傾けながら足取り軽く歩いていた。
最初はこんなに早起きする事が辛くて辛くて仕方が無かったけど、
流石に数ヶ月すれば慣れるもので。
今となってはラッシュの時間も微妙にズレて、静かに登校出来る事を気持ち良いとさえ感じている。

私の横を通り抜けた風が、髪とスカートを持ち上げた。
今日は朝から風が強い。
もしかしたら春一番が吹くのかも。
(とりあえず後で柳先輩辺りに聞いてみよう。)
風が木を揺らしているのを見上げながら、そんな事を考えていた。

と、その時だった。





“ザワワワ・・・・”





沢山の人が何か話をしている様なそんな音。
MDの音楽の後ろで微かに聞こえるその音が、私向かって押し寄せてくるのを感じた。
“ビクッ!”
背筋が凍るような感覚を感じて、私は身体を強張らせた。


びゅぅ〜!!

「うわっぷ!!(汗)」


今まで吹いてた風なんて比べ物にならない位激しい突風が、私目掛けて走ってきた。
砂や葉っぱがその風に運ばれ、凄い勢いで私の身体にぶつかって行く。
「っ!痛、痛い痛い痛い〜〜〜〜!!」
必死に手でガードしようとしたんだけど、それは私のささやかな抵抗でしかなくて。
(マジで有り得ない〜〜!!・汗)
きっと一瞬に違いなかったであろうその時間は、私にとっては随分な時間で。
この風がまだ止まないのかと、私は風を真っ直ぐに見据えてしまった。


「痛ぁーーーーッ!!!」


私はあまりの痛さに思わずその場に座り込んだ。
風が運んで来た砂が、私の眼球目掛けて突進してきたのだ。
暫くそのまま座り込んでいると、風は何事も無かったかのように走り去ってしまった。
その場に取り残されたのは、戦いに敗れ(?)負傷した私。










それから早10分弱。
私は未だその場所からほとんど変わらない場所に居る。
目に入ってしまった砂はなかなか取れてはくれず、瞼を開けることが出来ないのだ。
瞼を開こうとすれば・・・
「・・・痛っ。」
もちろん目に激痛が走る。
さっきから何度もコレの繰り返し。
瞼を開けようと試みては、その痛さに再び瞼を閉じる。
その度に目からぼろぼろ涙が零れるというのに、砂は頑固に私の瞳から流れようとはしてくれない。

私は大きくため息を着いて、とりあえず学校の塀際に寄った。
これじゃぁ後ろから自転車が来ても避ける事すら出来ないのだから危ない。
手を身体の前に出しながら、一歩一歩おそらく塀がある方向へ足を進める。
やがて手が塀に触れて、私はホッと息をついて塀に寄りかかった。

「痛いよ、痛いよ〜(泣)っていうか今何時?朝練・・始まっちゃった?」

真田副部長は、私が朝練に遅れたこの事情をちゃんと信じてくれるだろうか?
まさか・・・裏拳って事は・・・無いよね?
ちょっと不安になってきた(汗)


『胸騒ぎを頼むよ〜♪』


そんな私の気持ち全く無視して、MDから流れてきた大好きなSMAPの曲のフレーズ。
いや・・出来れば今は裏拳に対する“胸騒ぎ”は頼みたく無い・・・(笑)
私は慌ててポケットからリモコンを手繰り寄せて、
毎日使っている感覚から数回早送りのボタンを押した。

自分で編集した上に、毎朝聴いている私の感覚。
やがてMDから流れてきた、大好きなあの曲のイントロ。
優しいギターの音と、柔らかなハミング。





らいおんハート。





数え切れない程繰り返し聴いた大好きなフレーズに耳を傾けながら、
壁から身体を立て直して私はしっかり地面に両足で立った。
そしてゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「・・・・・よし!」
私は小さく呟いてガッツポーズを決めると、
とりあえず誰かに遭遇する事を願って、
学校の塀に手を付きながらゆっくりゆっくり歩き始めた。
まるで歌に応援されるようにして進んでいた私。

あ、もうすぐあのフレーズだ。
あのフレーズが流れれば、サビになる。
こんな時でもサビはきちんと聴きたい。
好きなものは好きだからしょうがないでしょ?







『ありきたりな恋・・・・』


私はふと足を止めて、イヤホンの音に耳を澄ませる。







「        」






(・・・ん?)
歌に混じって、何か聞こえた気がした。
でも本当に微かだった。
もしかしたら気のせいだったのかもしれない。









君を守るため、


その為に、生まれてきたんだ――――









サビのメロディーが流れたと同時。
ぐぃっと肩を掴まれて、私の身体はくるりと回った。
今まで向いていたのとは反対の方向を向かされる。
(やっぱり気のせいじゃ無かったんだ!・汗)
私は大急ぎでイヤホンを耳から外すと、慌てて口を開いた。

「おはようございます!あの、もしかしてテニス部の方ですか!?」

この時間に登校しているのは、
さっきも言った通りテニス部員とごく少数の生徒だけ。
“だからきっとテニス部員だ!”そう思った私だったけど・・・・。

「・・・は?」

返って来たのは怪訝そうな声。
どうやら私の想像は間違っていたようだ。
「アレ?もしかして違うのかな・・・・・ごめんなさい!」
私は慌てて大きく頭を下げたが、返事は一向に返って来い。
不思議に思ってゆっくり頭を上げたけど、
私は未だ瞼が開けられないから視界は真っ暗なままで。
もうそこに人が立っているのかどうかも分からない。
(もしかして・・・もう行っちゃったのかな?)


「・・・目・・」 


たった一言だったけど、確かに声が聞こえた。
短い言葉だから誰なのかは分からないけど、
その低い声でとりあえず相手が男の子なのだという事だけは分かった。
その人がまだ立ち去って居なかった事に少しホッとしながら、
私は苦笑しながら頷いた。
「あ、はい。実は風で砂が目に入ってしまって、痛くて目が開けられないんですよ。」


目の前に居る人は一体どんな人なんだろう?
ふとそんな事を思う。
先輩?同級生?
あ、もしかしたら学校の人じゃないかも!

ふと浮かび上がるそんな可能性。
何だか急に恥ずかしくなって、
“あはは//”
私は明るく笑い飛ばして、照れ隠しに頬を掻いた。

不意にまた後ろから強い風が吹いて来る。
私は慌ててスカートを押さえつけた。

と、そんな風の中だった。








私の手が掴まれたのは。









「え?」
一瞬何が起こったのか分からなかったけど、
私の手はおそらくさっき私に声を掛けた人に握られて。
その手はまるで誘導するように、私の手をぐいぐいと引っ張る。
「あ、あの・・・どこに・・・?」
私が何を言っても返事は返って来ない。
どこに向かっているのかも分からない。
働く感覚は触覚だけ。
うっすら滲んでくる冷や汗と共に、心臓の鼓動が不安を訴えてくる。






でも暫くすると不思議と不安は弱まって、
気が付いた時には消えていた。



私の手を握り締めるその手は、大きくて優しかったから。
何故だか私は安心していた。
それどころか鼓動が早くなっているような、
そんな感覚。








私の手を包み込む・・・・冷たい手。








どの位歩いたのだろう。
視界が見えない分かなり緊張して随分な大冒険だった気がするけど、
おそらくそれ程遠くまでは来ていない。
私を誘導していた人が足を止め、
私は思い切りその人の背中だか胸だかに激突してしまった。

「うわっ!!ご、ごめんなさい!//」

空いた手で慌てて鼻の頭を摩りながら謝罪したけど、相変わらず声は返って来ない。
でもその代わりに私の耳に聞こえてきたのは、
蛇口の捻る音と、水が勢い良く出る音。


「水場まで連れてきてくれたんですね!
 あ、あの。どうもありがとうございました!!」


その人は何も言わずに私の手を引っ張ると、水道の水を私の手に触れさせた。
私は小さく頭を下げると、鞄から手探りでタオルを取り出す。
ソレを水場の上に置くと、
くっ付けた両手いっぱいに水を溜めて目に入った砂を洗い流した。
何度も何度も丁寧に洗うと、目から痛みが引いていくのを感じた。
顔を上げてタオルを掴み、顔を拭くと私は背後に振り返る。

「あの、本当にどうも――――」


伝えたかった感謝の言葉。
だけどそこにはもう、誰の姿も見当たらなかった。










「絶対に素敵な人だと思うんですよ!」


力説する私に、先輩達は怪訝な顔を私に向ける。
「はぁ?誰が?」
「も〜、ジャッカル先輩ちゃんと私の話聞いてました!?
 だ・か・ら、私の事を助けてくれた人ですよ!!」

アレから大急ぎで支度をした甲斐があり、
私はどうにか朝練に遅刻する事無くテニスコートに到着する事が出来た。
全力疾走のせいであがってしまった息を落ち着かせながらホッと胸を撫で下ろした私に、
「いつも時間に余裕のある さんが・・・珍しいですね。」
と、柳生先輩が小さく首を傾げた。
私は先輩のその一言をきっかけに、朝起こった出来事をテニス部の先輩方に話した。

風で視界を奪われてしまった事。
そして、そんな私を助けてくれた人の事。


私が力説するのを横目に、丸井先輩が大きく風船ガムを膨らませる。
「何で分かるんだよ?顔とか全然分かんなかったんだろぃ?」
「ヴッ(汗)・・・でも、心の温かい人です!」
「・・・何でそんなこと分かるんだよ?ソイツの顔も分かんないんだろ?」
切原先輩がラケットのテンション具合を指で確認しながら、
興味無さそうに呟いた。


「その人・・・・・手が冷たかったんです。」


私がにっこり笑って答えると、
レギュラー一同が“?”と言わんばかりの表情で私を見てきた。
「・・・何ソレ?」
「切原先輩知らないんですか?手が冷たい人は、心の暖かい人なんですよ?」



前に雑誌で読んだことがある。
手が冷たい人は心が温かいのだと。
今までは、そんなの当てにならない噂だと思ってた。
でもそんな考えは今日変わった。
私を助けてくれた人の手が冷たかった。
それ以上の証明は無い。



「・・・くだんね。」
切原先輩はため息混じりに呟くと、足早にコートに向かって行った。
「ちょ、くらだなくなんて無いですよ〜!!」
、ソイツただの冷え性じゃなかと?」
「仁王先輩まで!何でそーゆー事言うんですかっ!!」
怒っているというのに、
仁王先輩は平然と私を見下ろして“ぽんぽん”と私の頭を撫でた。
ハッと周りを見回すと、先輩達はみんな笑いながらそんな私を眺めていた。

う〜、皆ちっとも真面目に聞いてくれない!!
何でウチの先輩は皆こうなのさ〜!!

叫びだしたい衝動に駆られたけれど、
ふととある人物を思い出して叫ぶのを思い留まった。
そう、あの人なら・・・・



幸村部長なら、私の話を真剣に聞いてくれたハズ!!



「きっと・・・・幸村部長みたいな素敵な人ですよ〜だっ!!」
私は先輩達に向かって、
思いっきり口の端をひっぱって“イ〜!!”をした。






「むっ!? が幸村の名を・・・幸村がココへ来ているのか!?
 ハッ、まさか病院を抜け出して・・・・何処だ幸村ぁ〜っ!!(笑)」 

「落ち着け弦一郎、 は“幸村みたいな”と言っていた。“幸村”とは言っていないぞ。」

「ん?・・・あぁ、そうか。(しょんぼり)」











それからの私は、ふと気が付くとその時のことばかり考えていた。
恩人さんの事ばかり考えてた。
授業中でも。
部活中でも。

どうしたら会えるんだろ?
どうしたら見つけられるんだろう?

でも自分の力だけで捜すのはおそらく無理で。
だから私は出来るだけ沢山の友達にその日の事を話して、情報集めに没頭した。
ちょっとした事で良い、
恩人さんに繋がる情報が欲しかった。
例えどんな人でも構わない。
とりあえず助けてくれたお礼を伝えたくて・・・・・


私は目を閉じて、あの日の手の感触を思い出す。








大きくて優しくて・・・

冷たい手の感触を。















「・・・・アレ?」

強風吹き荒れるあの朝から一週間。
登校してきた私を待っていたのは、靴箱の中の一枚の手紙だった。


封筒の裏にはクラスも名前も書いて無い。
首を傾げながら封を開けると、中には一枚の紙。
白い便箋には綺麗な字で一行だけ文字が連なっていた。










『君が捜しているのは僕です。

 昼休みに中庭で待っています。』











キーンコーン・・・・

4限の授業の終わりを告げるチャイムの音が鳴り響くと共に、私は勢い良く席から立ち上がった。
“どうしたの?ご飯は?”と首を傾げる友達に、“ちょっと用事”と曖昧に笑い返して、
私は一目散に廊下に飛び出した。





恩人さんにやっと会える!
お礼が言える!





私は逸る気持ちを抑えながら中庭に飛び込んだ。
でもそこにはまだ誰の姿も無かった。
(まだ来て無い・・・・・)
私は緊張と嬉しさで逸る胸に手を当てて、
弾む息を整えるように大きく深呼吸をする。


時間が経つにつれて、
校内はお昼ご飯を食べ始める生徒にざわめき始めた。
それと共に徐々に加速する私の心臓。



ふと、背後に人の気配を感じた。



勢い良く振り返るとそこには、見たことのある人が立っていた。
隣のクラスの男子生徒。
確か・・・バスケット部だった・・カナ?(汗)
必死に名前を思い出そうとしている私に彼は一歩一歩近づいてくると、
私の事を見下ろす様に目の前で足を止めた。



「あの・・・ さん!」
「はい?」
「えと・・・・あの日君を助けたのは・・・・俺です!」
「え・・・?」
私の瞼が大きくパチクリと瞬きをする。



(この人が・・・恩人さん?)



驚いた。
正直意外だった。
ずっと捜していた恩人さんは・・・本当にこの人なの?
恩人さんの名前も顔も分からないのに、
何故か私の脳内にそんな言葉が木霊し続ける。


そんな私を、にっこりと爽やかな笑顔で見下ろしながら彼は言った。


「僕・・・ずっと さんの事が好きだったんだ!」

身体の横で宙ぶらりんになっている私の腕。
彼は手を伸ばし、両手でしっかりと握り締めた。







私の手を包み込んだのは、暖かな手。







その瞬間背中に何かが走った。
一瞬だったけど、怖い位に背筋が凍りつくのを感じる。



「・・・・違う。」

「え?」

「貴方じゃ・・無い。」



思い切り首を振った私を、彼は怪訝そうな表情で覗き込んできた。
さん・・・?」
「・・・嫌、嫌だっ!離して下さいっ!」
私は必死に振り払おうとしたけれど、私の力に彼の腕はビクともしなくて。
己の非力さに、思わず泣きたい衝動に駆られた。







嫌だ。

嫌だ。





助けて。

恩人さん――――









「・・・・・おい。」

ふと耳に入ってきた聞き覚えのある声。
顔を上げるとそこには、まるで試合の時の様に鋭い瞳。


「全く・・・お前何やってんだ?」

「切原先輩・・。」


切原先輩はゆっくり私達の方に近づいてくると、私の手を握るその腕を掴んだ。
「お前・・ウチのテニス部のマネに何やってんのかね?
 ・・・・全力で潰されたいか?」
「っ!?」
男子生徒は一瞬小さくたじろぐと、悔しそうにその手を離した。
やっと開放された私の手。
だけど・・・・スグに捕らわれてしまった。

「ほら、行くぞ。」
切原先輩が私を引っ張って歩き出す。
「え、でもこの人・・・(汗)」
「んなの知らね。」
 

切原先輩に手を捕らわれてしまった私は、
半ば引きずられるようにして中庭から離れた。
男の子の視線を微かに背中に感じたけれども、
私はあえて気付かないフリをして必死に先輩に付いて行った。









歩いている間、切原先輩は何も言わなかった。
左手で私の手を握りながら、反対の手は制服のズボンのポケットの中。
黙々と進む平均よりも長めの足。
コンパスの違う私は小走りしながら、必死にそのペースに付いて行く。





そんな自分の状況に、私はデジャヴを感じていた。

こんな事が前にあった気がする・・・。




私の手を取る大きな手。
私を引っ張るちょっと早めの歩くスピード。
そして・・・・



「・・・切原先輩・・?」

「ん?」

「先輩が・・・私を助けてくれたんですね。」



私の手を取る・・・大きくて冷たい手。



私の言葉に切原先輩はやっと足を止めた。
気が付くとそこはいつものテニスコートの入り口で。
先輩はゆっくりと振り返るとずっと掴んでいた手を離し、
ちょっと不機嫌そうな顔で私を見返した。



「何で・・・スグ分から無ぇの?」

「え?」

「何で俺だって分からないんだよ。」

「だ、だって、何も見えなかったんですよ!?
 それに・・・先輩何も言ってくれなかったし・・・。」

「俺だったら絶対に分かる。」

「先輩――――。」




「例え目が見えなくなっても、耳が聞こえなくなっても。

 絶対にアンタを見付けられる。間違えたりなんか・・・しない。」




まるで拗ねる子供みたいな表情。
微妙に逸らされた視線。
初めて見る先輩に、私の心が“コトン”と音を立てた。


もしかして。
恩人さんの手が冷たかったのは、
“心が温かいから”とか、
もちろん“冷え性だから”じゃなくて。
本当は、







緊張していたから・・・?







そっぽを向く切原先輩に視線を合わせる様移動すると、
俯いた先輩の顔をわざと覗きこんだ。
先輩はちょっと照れた様に、“何だよ//”と小さく呟いて。
私は思わず小さく笑ってしまった。



(あぁ・・・そうか。)



「やっぱり当たってたじゃないですか。」
「ハァ?」
「私の恩人さんの予想!
 “私を助けてくれた人は、心の温かい素敵な人だ”って私言ってたデショ。」
「お前・・・ソレ本気で言ってんの?」 
「ん?」
「思いっきり外れてんじゃんかよ。俺はそんな―――」
「先輩は心の温かい素敵な人だよ。」



私は先輩に満面の笑みを向ける。
だって目の前に居るこの人は、ずっと会いたかった恩人さん。
そして・・・・


「私の好きな人が、心の温かい素敵な人じゃないわけが無いデショ?」




私の好きな人だから。








先輩は暫く呆けた顔をしていたけれど、
ふと真剣な表情に変わってしっかりと私に向き直った。
「・・・目。」
「ん?」
「目、瞑れよ。」
「あ、はい。」
私は言われるままにそっと瞼を閉じる。
暫くすると左手に伝わる。
あの日と同じ、大きくて優しい冷たい手の感触。




「俺は・・・誰デショウ。」

「ん?そんなの簡単です。」
 


これは、

私の大好きな大好きな人の手です。





                 END


= = = = = =
『Dear of you transmitted from hand』
 (手から伝わる君への愛しさ)

『カッコ良い切原君が書きたいんです!
 カッコ良くて、その上ブラックじゃない切原君が書きたいんです!』
そんな私の目標は、はたして達成されたでしょうか?
切原君は赤目からよくブラック認識されてしまうことが多いのですが、
私個人としましてはブラックよりホワイト(?)な切原君が好きです。
でもでも!ホワイトだけど積極的なの!
ヒロインちゃんに押せ押せなの!ここは譲れないッス!(笑)

今回は普段からお世話になっている葵ちゃんと克己さんのサイト『赤いもの』の、
サイト一周年記念に書かせて頂きました。
・・とか言っているのですが・・・お待たせし過ぎです!!
書きあがる前に、克己さんと葵ちゃんのサイトは別サイトになってしまったじゃないのさ!(泣)
あ〜、もう本当にごめんなさい!!でもその分力を注いだつもりです☆

改めまして、サイト一周年おめでとうございます。
これからもオン・オフ共にどうぞよろしくお願いします(ぺこり)


            慎々 


『Halb Mond』の慎々さんから頂きました。
いいですよねぇ〜、黒くないのにかっこいい赤也くん。ばっちり書けてましたよ慎々さんvv
私もこんな風に手をひっぱってもらいたいですよvvv(もち赤也君に)